創業者が「いい人」でいても大丈夫な理由
最近、ある創業者から届いたメールを読んで、大切なことがわかった。スタートアップの創業者がいい人でいても大丈夫な理由だ。
私は、非常に成功したビジネスマン(漫画ではいつも男性だった)について、漫画に出てくるようなイメージを持って育った。50代で、強欲で、葉巻をくわえ、机を叩き、権力を振りかざして勝つ男。しかも、勝つための手段にはあまりこだわらない。以前にも書いたように、スタートアップについて最も驚いたことの一つは、最も成功した創業者の中に、そういう人がほとんどいないことだ。ほかの業界で成功している人たちがどうなのかは知らない。だが、スタートアップの創業者は違う。 [1]
そういうことは経験的にはわかっていたが、この創業者からメールをもらうまで、その理由を数学的に考えたことはなかった。彼は、自分は根っからのお人よしで、無料で与えすぎる傾向があるのではないかと心配していた。そして、「少しばかりサイコパスっぽさ」が必要なのかもしれないと思っていた。
私は、そんなことを心配する必要はないと伝えた。口コミで広がるほど良いものを作ることができれば、成長曲線は超線形になるからだ。人からお金を引き出すのが苦手だったとしても、最悪の場合、その曲線が本来あり得たものの1未満の定数倍になるだけだ。しかし、どんな曲線でも定数倍したものは、形としてはまったく同じだ。Y軸の数字は小さくなるが、曲線の傾きは変わらない。そして、成功したスタートアップのような速度で成長するものなら、Y軸の数字は自然についてくる。
例を挙げれば、わかりやすい。今、あなたの会社が月に1,000ドルを稼いでいて、あまりに素晴らしいものを作ったため、週5%のペースで成長しているとする。2年後には、月に約16万ドルを稼ぐことになる。
では、あなたが強欲とは正反対で、ユーザーから引き出せる金額の半分しか得ていないとする。その場合、2年後に稼いでいるのは月8万ドルで、月16万ドルではない。どれくらい遅れているだろうか。すべての金を取り出していた場合の水準に追いつくまで、どのくらいかかるだろうか。わずか15週間だ。2年後の時点で、お人よしの創業者が強欲な創業者に遅れているのは、たった3.5か月なのである。 [2]
何か一つの数字を最適化するなら、選ぶべきなのは成長率だ。先ほどと同じく、ユーザーから引き出す金額は本来の半分しかないとする。ただし、週5%ではなく週6%で成長できるとしたらどうだろう。2年後、強欲な創業者と比べてどうなっているだろうか。すでにあなたのほうが上だ。月21.4万ドル対月16万ドルで、しかも差は急速に広がっている。さらに1年後には、あなたが月440万ドルを稼ぐ一方、強欲な創業者は月200万ドルにとどまる。
もちろん、成長が強欲さに左右される場合には、強欲であることが役に立つ。スタートアップがほかと違うのは、たいていの場合、そうではないことだ。スタートアップは普通、人々が友人に勧めたくなるほど素晴らしいものを作ることで勝つ。そして、強欲であることはそれに役立たないだけでなく、おそらく妨げにもなる。 [3]
スタートアップの創業者が安心していい人でいられるのは、素晴らしいものを作ることには複利効果があるのに対し、強欲さにはそれがないからだ。
だから、もしあなたが創業者なら、自分を幸せにし、会社も成功させるために、こんな約束を自分自身と交わすといい。成長率を高めるために一生懸命働いて埋め合わせる限り、どれだけいい人でいても構わない、と自分に言い聞かせるのだ。最も成功しているスタートアップの多くは、無意識のうちにこの交換条件を選んでいる。意識してやれば、さらにうまくできるかもしれない。
注
[1] 成功したスタートアップの創業者は、金に突き動かされていると考える人は多い。実際には、最も成功した創業者たちの秘密兵器は、彼らが金に突き動かされていないことだ。もしそうなら、急成長するスタートアップなら誰でも成長の途中で受ける買収提案の一つを、すでに受け入れていたはずだ。最も成功した創業者たちを動かしているのは、ものを作る人の多くを動かしているものと同じだ。会社は彼らのプロジェクトなのである。
[2] 実際、2 ≈ 1.05 ^ 15 なので、お人よしの創業者は常に強欲な創業者に15週間遅れている。
[3] 顧客からお金をうまく絞り取れることが役に立つかもしれないもう一つの理由は、スタートアップは普通、最初は赤字だからだ。顧客一人あたりの収益を増やせれば、最初の資金が尽きる前に黒字化しやすくなる。ただ、スタートアップが最初の資金を使い果たし、その後追加の資金を調達できずに死ぬことは非常によくあるものの、その根本原因は、既存顧客からお金を引き出す努力が足りないことよりも、たいていは成長が遅いことや支出が多すぎることにある。
謝辞 草稿を読んでくれたSam Altman、Harj Taggar、Jessica Livingston、Geoff Ralston、そして、とてもいい人でいてくれたRandall Bennettに感謝する。
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