致命的な窮地
多くのスタートアップには、倒産する数か月前に、ある時期が訪れます。銀行にはかなりの資金が残っている一方で、毎月多額の赤字を出しており、売上の伸びはまったくないか、あってもぱっとしない時期です。会社には、たとえば6か月分のランウェイがあります。もっと露骨に言えば、あと6か月で倒産するということです。創業者たちは、投資家からさらに資金を調達すれば、この状況を避けられると考えます。 [1]
最後の一文が致命的です。
追加の資金を投資家がどれほど喜んで出してくれるかについて、創業者が自分を欺くほど得意なことは、ほかにないかもしれません。初回の資金調達でも投資家を説得するのは難しいものですが、創業者もそのことは分かっています。二度目に彼らを襲うのは、次の三つの力が重なり合うことです。
- 会社は、初回の資金調達時よりも多くの金を使っています。
- 投資家は、すでに資金調達を済ませた会社に対して、はるかに高い基準を持っています。
- 会社が、失敗として見られ始めています。初回の資金調達時には、成功でも失敗でもありませんでした。そう判断するには早すぎたのです。今はその問いを投げかけられる段階に来ています。そしてデフォルトの答えは失敗です。この時点では、それが通常の結末だからです。
最初の段落で説明した状況を、私は「致命的な窮地」と呼ぶことにします。新しい言葉を作るのはできるだけ避けていますが、この状況に名前をつければ、自分たちがそこにいることに気づくきっかけを創業者に与えられるかもしれません。
致命的な窮地が非常に危険なのは、それが自己強化的だからです。創業者は追加の資金を調達できる可能性を過大評価し、そのため黒字化に向けた努力が緩みます。すると、資金調達の可能性はさらに下がります。
致命的な窮地について分かったところで、どうすれば避けられるのでしょうか。Y Combinatorは、資金を調達した創業者に対して、それが生涯で最後に得る資金だと思って行動するよう伝えています。この状況の自己強化的な性質は、逆方向にも働くからです。追加投資が必要でなければないほど、資金は調達しやすくなります。
すでに致命的な窮地にいるなら、どうすればいいのでしょうか。第一歩は、追加の資金を調達できる確率を見直すことです。ここで私は、驚異的な千里眼の力を発揮して、あなたに代わってその確率を計算します。ゼロです。 [2]
残る選択肢は三つです。会社をたたむか、稼ぐ額を増やすか、使う額を減らすかです。
何をしても失敗すると確信しているなら、会社をたたむべきです。そうすれば、少なくとも手元に残った資金を返せますし、会社が沈んでいくのを見届けるために費やすはずだった何か月分もの時間も、自分のために使えます。
とはいえ、会社はめったに「失敗せざるを得ない」わけではありません。ここで本当に示しているのは、すでに諦めたと認める選択肢です。
会社をたたみたくないなら、残るのは売上を増やすことと費用を減らすことです。ほとんどのスタートアップでは、費用=人です。つまり、費用を減らすこと=人を解雇することです。 [3] 人を解雇すると決めるのは、たいてい難しいものです。ただし、そうであってはいけないケースが一つあります。すでに解雇すべきだと分かっている人がいるのに、その事実を認めたくなくて目を背けている場合です。もしそうなら、今がその時です。
それで黒字になるか、手元に残った資金で黒字化までたどり着けるようになるなら、当面の危機は回避できます。
それでも足りないなら、選択肢は三つあります。優秀な人を解雇するか、従業員の一部または全員に、しばらく給与を減らしてもらうか、売上を増やすかです。
給与を減らしてもらうのは弱い解決策で、問題がそれほど深刻でない場合にしか機能しません。現在の軌道ではぎりぎり黒字に届かないものの、給与を少し削れば黒字化のしきい値を越えられるなら、全員にそうする理由を説明し、納得してもらえるかもしれません。そうでなければ、問題を先送りしているだけでしょう。そして、給与を削ろうとしている本人たちには、それが明らかに分かります。 [4]
残るのは、優秀な人を解雇することと、もっと稼ぐことです。この二つのバランスを取ろうとするときは、最終的な目標を忘れないでください。多くの人が使う一つの製品を持つ、成功したプロダクト企業になることです。
問題の原因が採用しすぎたことなら、人を解雇するほうに大きく傾くべきです。何を作るのかすら分かっていない段階で15人を採用したなら、壊れた会社を作ってしまったことになります。まず何を作るのかを見極める必要がありますが、それは15人より少人数で行うほうが、おそらく簡単です。それに、その15人が、最終的に作るものに必要な人材だとは限りません。したがって、いったん規模を縮小し、その後でどの方向に成長するかを考えるのが解決策かもしれません。結局、15人を乗せたまま会社を地面に墜落させても、彼らのためにはなりません。最終的には全員が職を失いますし、この見込みのない会社に費やした時間も、すべて無駄になります。
一方、数人しかいないなら、もっと稼ぐことに集中したほうがよいかもしれません。スタートアップにもっと稼げと言うのは、頼めばできるかのようで、簡単すぎる提案に聞こえるでしょう。たいていのスタートアップは、すでに自分たちの売っているものを売るために、できる限り努力しています。ここで私が提案しているのは、もっと頑張って稼ぐことではなく、別の方法で稼ごうとすることです。たとえば、コードを書いている人が大半で、営業している人が一人しかいないなら、全員で営業に取り組むことを考えてみてください。会社が倒産した後に、コードが増えて何の役に立つのでしょうか。特定の契約を成立させるためにコードを書く必要があるなら、そうしてください。それも、全員で営業に取り組むことから自然に導かれる行動です。ただし、最短で最大の売上につながることだけに取り組んでください。
別の方法で稼ぐには、違うものを売るという手もあります。特に、よりコンサルティングに近い仕事をすることです。「コンサルティング的」と言うのは、プロダクトを作ることから純粋なコンサルティングに至るまでには、長くて滑りやすい坂道があり、そこを少し下るだけで、顧客にとって実に魅力的なものを提供し始められるからです。今のあなたのプロダクトにはまだあまり魅力がないかもしれません。しかし、スタートアップなら、あなたのプログラマーは顧客の社内にいるプログラマーよりはるかに優秀なことが多いでしょう。あるいは、顧客が理解していない新しい分野の専門知識を持っているかもしれません。そこで営業の会話を、「私たちのプロダクトを買いませんか?」から「高いお金を払ってでも必要なものは何ですか?」へ、ほんの少し変えてみるのです。すると、顧客からお金を引き出すのが突然ずっと簡単になるかもしれません。
ただし、これを始めるときは、冷徹な金銭第一主義で臨んでください。ここでやろうとしているのは、会社を死から救うことです。だから、顧客には大金を、しかもすぐに払ってもらいましょう。そして、できる限りコンサルティングの最悪の落とし穴は避けてください。理想的なのは、顧客向けに、プロダクトの仕様を正確に定めた派生版を作り、それ以外は通常のプロダクト販売にすることかもしれません。知的財産は自分たちに残し、時間単位の請求もしないのです。
うまくいけば、このコンサルティング的な仕事は、単に生き残るためにするものではなく、あなたの会社を定義するスケールしないことになるかもしれません。そうなることを期待してはいけません。ただ、個々のユーザーのニーズに深く入り込むなかで、先に広い景色が開けている狭い入り口を見逃さないようにしてください。
カスタム開発にはたいてい非常に大きな需要があります。そのため、本当に無能でない限り、コンサルティングの坂道のどこかには、生き残れる地点があるはずです。ただし、私が「滑りやすい坂道」という言葉を使ったのは偶然ではありません。顧客の飽くなきカスタム開発への要求は、常にあなたを坂の下へと押し続けます。だから、おそらく生き残ることはできるでしょう。しかし今度は、損害と注意散漫を最小限に抑えながら生き残ることが問題になります。
よい知らせは、成功したスタートアップの多くが、死にかける経験を乗り越え、その後に大きく成長していることです。自分たちが死に近づいていると、間に合ううちに気づけばいいのです。そして、致命的な窮地にいるなら、あなたはまさに死に近づいています。
注
[1] 作っているものが完成するまで非常に長くかかるため、最初の1、2年は合理的に考えても稼げない会社が少数あります。そうした会社については、「売上の伸び」を「進捗」に置き換えてください。あなたの会社がそうした会社に該当するのは、初期投資家があらかじめそれを承知で同意していた場合だけです。率直に言えば、そうした会社でさえ、そうでなければよかったと思っています。「進捗」は現金化しにくいため、投資家の思いどおりにされてしまうからです。
[2] 既存の投資家が、追加投資をすると約束してあなたを助けてくれるという、致命的な窮地の変種もあります。より正確に言えば、投資家は可能性に言及しただけのつもりなのに、あなたがそれを追加投資の約束だと受け取っている場合です。ランウェイが8か月分以下なら、この問題を解決する方法は、今すぐその資金を得ようとすることです。そうすれば、資金を得られて当面の問題が解決するか、少なくとも資金調達の見込みについて自分を欺き続けるのを、投資家に手伝わせずに済みます。
[3] もちろん、給与以外に削減できる大きな費用があるなら、今すぐ削減してください。
[4] もちろん、問題の原因が自分たちに高い給与を支払っていることなら話は別です。創業者の給与を、必要最低限まで削ることで黒字化できるなら、そうすべきです。ただ、それに気づくためにこの注を読む必要があったのなら、よい兆候ではありません。
謝辞 草稿を読んでくれたSam Altman、Paul Buchheit、Jessica Livingston、Geoff Ralstonに感謝します。
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