理想のブートストラップビジネスの設計
Jason Cohen氏が2013年のMicroConfで行った講演Designing the Ideal Bootstrapped Business with Jason Cohenは、自己資金で起業する創業者にとって、私がこれまで見つけた中でも最も価値のあるリソースの一つです。初めて視聴したのは2020年で、それ以来何度も見返しています。
ブートストラップ型のソフトウェアビジネスの世界に入ったばかりの方や、事業を軌道に乗せるのに苦労している方には、この講演を強くおすすめします。
以下に、私のメモをまとめました。
ほとんどのビジネスはうまくいかない
- ほとんどのビジネスは失敗します。
- 多くは、顧客が本当に求めていないプロダクトを作ってしまうことが原因です。
- 中には、顧客が求めるプロダクトを作っていても、ブートストラップには向かない事業構造をとっているために失敗するケースもあります。
Jason氏の経歴
- Jason氏は、人気のWordPressホスティングサービスであるWPEngineの創業者です。
- Jason氏は4つの会社を創業しました。
- いずれも年商100万ドルを超えています。
- いずれも黒字でした。
- そのうち2社は売却しています。
- いずれもブートストラップで立ち上げられましたが、WPEngineは後にベンチャーキャピタルから資金調達しています。
「キャッシュマシン」
- 理想的な自己資金型ビジネスは「キャッシュマシン」です。
- 毎月、予測可能な形で利益を生み出す仕組みを持っています。
- カンファレンス参加者の20%は、翌月に一切作業をしなくても1万ドルの売上を得られる状態でした。
- 自己資金型ビジネスの目標は、創業者1人あたり月1万ドル以上の売上を上げることです。
- [編注: ここでは「売上」と言っていますが、おそらく「利益」の意味だと思われます]
収益モデル
単発販売は決して楽にならない
- 単発の販売は、決して楽になりません。
- 毎月、売上0ドルの状態からやり直しになります。
- 単発販売はキャッシュマシンとは正反対です。
- Jason Cohen氏の前の会社(単発販売モデルのSmart Bear)が月商数百万ドルに達したときでさえ、毎月の給与を支払えるか不安だったといいます。
- そのストレスは決して消えませんでした。
継続課金こそ唯一の道
- 「1,000人の真のファン」の神話
- Kevin Kelly氏が提唱したのが「1,000人の真のファン」という考え方です。
- ミュージシャンは、1,000人の熱心なファンにグッズやコンサートなどで1人あたり100〜200ドルを直接支払ってもらえれば、レーベルから独立できるというアイデアでした。
- Seth Godin氏がこの記事を広めたことで、より多くの人に知られるようになりました。
- しかしKevin Kelly氏はミュージシャンから「現実的ではない」というフィードバックを受け、この考えを撤回しました。
- 多くのファンから継続的に収入を得るのは困難です。
- ミュージシャンにとって年10〜20万ドルでは、ツアーのコストを賄うには不十分です。
- Godin氏は撤回に触れなかったため、神話だけが残っています。
- より良い目標は150人の顧客です
- プロダクトを作り始める前に、毎月お金を払ってくれる見込み顧客を20〜30人確保しておくべきです。
- 最初の数か月で20〜30人を見つけられなければ、持続可能な顧客基盤を築くのは難しくなります。
- 最初の50人:必死に最初の顧客を獲得する段階です。
- 次の25人:ゲスト投稿やSNSなどで獲得します。
- その後の75人:基本的なマーケティングで獲得します。
- プロダクトを作り始める前に、毎月お金を払ってくれる見込み顧客を20〜30人確保しておくべきです。
WPEngineの最初の顧客
- Jason氏はLinkedInでWordPressコンサルタントを40人見つけました。
- 彼ら向けに設計した新しいプロダクトがあると伝えました。
- ポイント: 話を聞いてもらう対価を支払うと申し出ました。
- 支払額は「相手が妥当だと思う金額」で、単発の仕事なので通常の時給より高くても構わないという条件でした。
- 全員が電話での対話に応じてくれました。
- 38人が実際に通話の予定を入れました。
- お金を求めた人は1人もいませんでした。
- 教訓: 相手の時間を尊重する姿勢を示すと、良い結果につながります。
価格設定
- 目標売上が月1万ドルで、顧客数が150人なら、1人あたり月66ドルを課金する必要があります。
- 1万ドル ÷ 150人 = 66ドル/人/月 です。
- 多くの創業者は、立ち上げ当初はサービスが不完全だという理由で安い価格を設定してしまいます。
- すべてが最低限の作りで、サポートも創業者1人で対応するため遅くなります。
- 創業者は、プロダクトに高い価値はないと考えて月19ドルに設定してしまいます。
- 価格を安くすると、より多くの顧客が必要になり、獲得が難しくなります。
- 戦略
- 価格帯を分ける
- WPEngineは顧客タイプ別に3つの価格帯を用意しました:49ドル / 99ドル / 249ドル
- 顧客1人あたりの平均売上は月100ドルを超えていました。
- 高めの価格を設定しつつ、クーポンを積極的に配る
- 例:通常料金は月99ドルですが、ブロガーに読者向けの30%オフクーポンを提供します。
- 結果的に目標である月66ドルに近づきます。
- 例:通常料金は月99ドルですが、ブロガーに読者向けの30%オフクーポンを提供します。
- 価格帯を分ける
ブティック型ビジネス
- 「ブティック」という言葉を聞いて何を思い浮かべますか。
- 小規模である
- スタッフが少なく、通常はオーナーだけで営業しているため、営業時間が限られている
- 高価格である
- 顧客はきめ細やかな対応を受けられる
- 提供される仕事は特別でユニークである
- 顧客はそのビジネスを応援していることに満足感を覚える
- 顧客に対して「ブティック」として自らを位置づけましょう。
- 独立系のブティックを応援しているという感覚があれば、顧客は高い価格も受け入れてくれます。
キャッシュフロー
- キャッシュが最も重要です。
- 「年払い前払いのトリック」
- 「これは必ずやるべきです」 — Jason Cohen氏
- マーケティングの想定例
- Google広告に300ドルかけると、月50ドルの継続売上が得られます。
- したがって6万ドルかければ、月1万ドルの継続売上が得られます。
- [編注: 私はこの点には同意できません。Google広告はこのように線形にはスケールしません。300ドルから6万ドルへ支出を拡大するには、より多くの表示枠を獲得するためにクリック単価を上げる必要があります。広告費を20倍にしても、コンバージョンは10〜15倍程度にとどまるのが現実的だと思います。]
- 今すぐ6万ドルのキャッシュがあれば、目標の月次売上に到達できます。
- 顧客には、年払いなら2か月分無料になると伝えます。
- 1年かけて12万ドルを回収する代わりに、すぐに10万ドルのキャッシュを手に入れられます。
- Google広告に6万ドル使ったとしても、残り4万ドルをマーケティングやデザイン改善などにすぐに充てられます。1年かけて継続売上を回収するのを待つ必要はありません。
- WPEngineの数字
- 新規契約の4分の1が年払いを選択しています。
- 75%が1か月分を支払います
- 25%が10か月分を支払います
- 0.75 × 1 + 0.25 × 10 = 3.25
- つまり、WPEngineは年払いオプションがない場合と比べて3.25倍のキャッシュフローを得ています。
- WPEngineの顧客獲得コストは月次キャッシュフローを下回っているため、実質的に無限のマーケティング予算を持っていることになります。
- 新規契約の4分の1が年払いを選択しています。
- 年払い前払いとクーポンを組み合わせると、より魅力的になります。
- 例:クーポンで年払いなら3か月分無料にします。
- クーポンなしでも2か月分は無料になりますが、3か月と言うほうがより魅力的に響きます。
- 例:クーポンで年払いなら3か月分無料にします。
- 前払いをより魅力的にするために価格を調整することもできます。
- 月払いの価格を上げ、年払いの割引を大きくします。
無料トライアル
- クレジットカードを登録してサインアップした人の多くは、そのまま継続します。
- トライアルだけで終わり、課金に至らなければ損をします。
- 代わりに60日間の返金保証を提供しましょう。
- まず前払いで課金し、簡単にキャンセルできるようにします。
- WPEngineがこの方式に切り替えたところ、サインアップが増加しました。
- 顧客はこの変更を好意的に受け止め、プロダクトを評価する時間が増えたと話していました。
小銭を拾いに行かない
- 例:Kickstarter
- 多額の資金が流通しています。
- Kickstarterは、その中からわずかな手数料を取ることで「小銭を拾う」モデルです。
- Kickstarterは1億ドルの資金を集めましたが、そのうちKickstarterの売上になったのは600万ドルだけでした。
- その年は赤字で、追加の資金調達が必要でした。
- Kickstarterはこのモデルの中でも最も成功した例の一つですが、それでも黒字化に苦労しています。
- Cohen氏は、ブートストラップビジネスにはこのモデルを推奨していません。
- 「顧客を獲得して、しっかりお金をいただきなさい」
市場モデル
- どのような市場がキャッシュマシン型の会社に向いているのでしょうか。
B2Bだけを作る
- 消費者向けには決して販売しないでください。
- Cohen氏は、1.99ドルのアプリが0.99ドルであるべきだと不満を述べるApp Storeのレビューを引用しています。
- 消費者は価格に敏感すぎ、要求も厳しすぎます。
- Cohen氏は、1.99ドルのアプリが0.99ドルであるべきだと不満を述べるApp Storeのレビューを引用しています。
- その年のMicroConfの登壇者は全員B2Bビジネスを展開していました。
- 例外はBingoCardCreatorのpatio11氏ですが、彼もB2Cは推奨していません。
悪い市場:その場限り・一時的な痛み
- 例
- 結婚式
- イベント
- コードプロファイラー
- 顧客にちょうど良いタイミングでアプローチしなければなりません。
- 結婚式のようなものでは、式までの数か月間に花嫁・花婿へアプローチしようとする多くの企業と競争することになります。
良い市場:自然に継続する市場
- 継続的に発生する実際のコスト
- 例:サーバーホスティング
- サーバーは継続的なコストだと誰もが理解しているため、ホスティングに対して継続的に支払うことを当然だと考えます。
- 例:サーバーホスティング
- 財務サイクル
- 例:税務、請求書発行、コンプライアンス
- これらは定期的に行わなければならないものです。
- 例:税務、請求書発行、コンプライアンス
- 痛みが時間とともに自然に変化する
- 例:デジタルマーケティング、SEO
- 市場の土台自体が変化するため、ツールも適応し続ける必要があります。
- 例:デジタルマーケティング、SEO
- サポートの提供
- 例:月100ドルのプレミアムサポート枠
- 「タダ同然のお金」です。どのみちすべてのチケットを解決したいのですが、処理する順番が変わるだけだからです。
- 例:月100ドルのプレミアムサポート枠
悪い市場:バイラル性
- バイラルなプロダクトは、ほとんど成功しません。
- バイラル係数が月1%(かなり良い数字です)で、ユーザーが100人いる場合、月に増える新規ユーザーは0〜1人にすぎません。
- バイラルなプロダクトが機能するのは、顧客基盤が大きいときだけです。
- その臨界点まで到達するにはコストがかかります。
良い市場:リアルタイムでない
- リアルタイムでないビジネスとは、プロダクトが数時間ダウンしても致命的ではないビジネスのことです。
- WPEngine(ホスティング)は悪い例で、少しでも障害が起きれば大問題になります。
- 「あれは失敗でした」
- WPEngineのサポートスタッフは、深刻な障害が発生すると夜中に起きて対応しなければなりません。
- 例
- アナリティクス、意思決定支援
- 財務 — 財務担当者は通常、スケジュールに余裕を持っています
- プロジェクト管理 — Trelloが1時間ダウンしても、解約しようとは思わないでしょう
- コンテンツ — 数時間ダウンしても問題になりにくく、静的サイトなら常時利用可能にするのも簡単です
悪い市場:マーケットプレイス
- 買い手と売り手をマッチングするプラットフォームです。
- 例
- Etsy、Kickstarter、eBay
- 立ち上げが困難です。
- 売り手を集め、彼らが必要とする機能を提供しなければなりません。
- 同時に買い手も集めなければなりません。
- 両方を集めてサポートするにはコストがかかります。
- 実質的に、ハイリスクな会社を2つ同時に立ち上げることになります。
- マーケットプレイスを持続可能にするには、両方が成功しなければなりません。
良い市場:完了できるもの
- 例
- WinZIP、Freshbooks、Basecamp、ホスティング、タイムトラッキング、バグトラッキング、CRM、Wiki、タスク管理、メール、PDF編集、画像編集、ウェブ解析
- 競合との機能競争に巻き込まれたくありません。
- ブートストラップでは機能開発のリソースが少ないため、不利になります。
良い市場:アフターマーケット
- すでに確立され、多くの支持を集めているプロダクトを見つけ、そのアドオンや連携機能を作ります。
- 例
- Smart Bear:PerforceやSubversionにコードレビュー機能を追加
- Balsamiq:Basecampのアドオンとしてスタート
- WooThemes:WooCommerce向けテーマ
- AlienSkin:Photoshop向け有料プラグイン
- QODBC:QuickBooksにODBCインターフェースを提供し、データベースクエリを実行できるようにする製品
- エコシステム
- アフターマーケットに対して友好的なエコシステムとそうでないものがあります。
- Apple App Store
- Appleはサードパーティアプリに対してやや敵対的です。
- Appleはときに純正アプリを投入して、プラットフォーム上のサードパーティベンダーと競合します。
- Salesforce、Heroku
- 彼らはアフターマーケットのベンダーと競合しないことを約束しています。
- サードパーティツールのエコシステムを育てるため、自社で実装する機能をあえて制限しています。
- Apple App Store
- アフターマーケットに対して友好的なエコシステムとそうでないものがあります。
- ベンダーはアフターマーケットのベンダーを支援することに前向きな場合が多いです。
- アフターマーケットのベンダーが、一次ベンダーのプロダクトの価値を高めてくれるからです。
良い市場:大きな市場
- 大きな市場では、身を置けるニッチが数多く存在します。
- 自分のニッチが小さすぎるリスクは常にありますが、大きな市場であれば隣接するニッチを見つけやすくなります。
- 大きな市場は、その課題が存在し、人々が解決のためにお金を払っていることを即座に証明してくれます。
- 大きな市場は、望めばライフスタイルビジネスから数十億ドル規模のビジネスへ成長する選択肢も与えてくれます。
顧客獲得モデル
広告はSNSに勝る
- Jason氏は、顧客獲得の手段としてSNSを好みません。
- 多くの人はSNSマーケティングのコストを過小評価し、効果を過大評価しています。
- SNSは通常、継続課金してくれる顧客をもたらしません。
- Jason Cohen氏のブログは4万人の読者を抱えていました。
- WPEngineを立ち上げたとき、登録したのはわずか2人でした。
- Hiten Shah氏も同様の経験をしています。
- 大勢のフォロワーがいても、顧客にはつながりませんでした。
クリック単価はいくらにすべきか
- 目安:クリック単価 = 顧客1人あたりの平均月次売上 ÷ 25
- 例:月50ドルの売上なら、クリック単価は2ドル(50ドル ÷ 25 = 2ドル)です。
- 正確な金額はビジネスによって異なります。
- 詳しい導出はJason氏のブログで解説されています。
成長のひずみ
- キャッシュマシンの構築に成功するとどうなるでしょうか。
- ビジネスは成長し続けます。
- より多くの顧客を支えるために、より多くの人を雇う必要があります。
- あなたの仕事は、マーケティングや開発からマネジメントへと変わります。
- それでもその会社を経営し続けたいと思いますか。
- 今後の道筋
- 大きくなりすぎる前に売却する
- 新しいオーナーにすぐに現金がない場合は、アーンアウト(条件付き支払い)で売却をまとめることもできます。
- 例:3年間、月2〜3万ドルを受け取る
- 新しいオーナーにすぐに現金がない場合は、アーンアウト(条件付き支払い)で売却をまとめることもできます。
- パートナーに売却する
- 最大の顧客に売却する
- 値上げする
- さらに成長させるためにベンチャー資金を調達する
- ベンチャーキャピタルを活用するつもりなら、ブートストラップでゆっくり始めるよりも、最初からそちらを選ぶべきです。
- 大きくなりすぎる前に売却する
次に何をすべきかをどう決めるか
- タレスは、実業家から哲学者に転身したギリシャ人です。
- 最も難しいことは何かと問われたとき、彼は「己自身を知ることだ」と答えました。
- 何が自分を満たしてくれるのかを理解しましょう。
- それは時間とともに変わっていくものだと理解してください。
- この道をすでに歩んできた人たちに話を聞きましょう。
まとめ
自己資金型ビジネスで成功するための公式は次のとおりです。
- 予測可能な顧客獲得
- 継続課金による売上
- 年払いの前払い
- 良い市場
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