ブートストラップ起業家としての6年目
6年前、私はGoogleの開発者としての仕事を辞め、自己資金でソフトウェア会社を立ち上げました。
最初の数年間、立ち上げた事業はすべてうまくいきませんでした。最も良いものでも月の売上は数百ドル程度で、黒字になったものは一つもありませんでした。
3年目の半ばに、TinyPilotというデバイスを作りました。コンピューターを遠隔操作できる製品です。すぐに評判が広まり、それ以来ずっと私のメイン事業になっています。


TinyPilotは、コンピューターを遠隔で操作できる小型デバイスです。
2023年、TinyPilotの売上は99万7千ドルで、気前よく切り上げて100万ドルとさせてください。さらに重要なのは、利益が23万6千ドルに達し、2022年から20倍に伸びたことです。
この記事では、ブートストラップ起業家として6年目に学んだことをお伝えします。
過去の振り返り
TinyPilotの利益が20倍に
| 収支項目 | 2022年 | 2023年 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | $807,458 | $992,597 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| クレジットカード還元 | $4,327 | $4,379 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 収入合計 | $811,785 | $996,976 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 広告費 | -$51,764 | -$39,270 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| クラウドサービス費 | -$9,151 | -$16,408 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| デザイン外注費 | -$30,215 | -$950 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 電気設計外注費 | -$124,643 | -$23,427 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 物流委託費 | -$0 | -$28,321 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| オフィス賃料 | -$6,600 | -$6,310 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 人件費 | -$205,984 | -$255,779 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 送料 | -$28,324 | -$16,853 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 原材料費 | -$324,140 | -$358,457 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| その他経費 | -$25,398 | -$31,404 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 費用合計 | -$806,219 | -$777,179 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
| 純利益 | $10,447 | $235,568 | JavaScriptを有効にすると増減が表示されます |
ほぼ収支トントンだった2年間を経て、TinyPilotはようやく意味のある利益を出せるようになりました。
変化の大部分は売上の伸びによるものです。今年、金属筐体に切り替えたことで、顧客が支払ってもよいと感じる価格が上がり、同時に製造キャパシティも拡大しました。
費用の内訳は変動しましたが、総額はほぼ横ばいでした。デザイン費はほぼゼロになりました。ロゴの微調整のためにデザイン会社に月6,000ドルを払うのをやめたからです。ハードウェア設計の改良よりも既存製品のスケールに注力したことで、電気設計費を10万ドル削減できました。
私は役員報酬を取っていないので、2023年にTinyPilotから得た収入は23万6千ドルが全額です。最初の5年間、わずかな収入でどうやって生活していたのかとよく聞かれます。答えは、マサチューセッツ州西部という物価の安い地域に住んでいることです。大手テック企業で働いていた頃にインデックスファンドで貯蓄しており、その配当収入で生活できていました。
2023年で最も恐ろしかった10分間
2月のある土曜日、のんびり過ごしていた午後に玄関のノックが聞こえました。ポーチに立っていたのは、ジーンズにウインドブレーカーを着た50代半ばの男性でした。私はまだパジャマ姿のままドアを開けました。
「TinyPilotの人ですか?」と彼は尋ねました。
「やばい」と思いました。不満を抱えた顧客が家を突き止めたのだろうか。
「……はい」と私は慎重に答えました。
「オフィスの管理人です。スプリンクラーが破裂して、あなたの区画に入れないんです。来てもらえますか?」
嫌な予感がしました。
オフィスまでの5分間の運転中、これで事業が終わってしまうのかと考えました。在庫はすべてTinyPilotのオフィスに置いてあります。基板が水浸しになっても動くのだろうか。おそらく無理でしょう。
TinyPilotは保険に入っていましたが、加入を決めたのは1年前、在庫が今の半分だった頃です。たとえ保険金が下りたとしても、製造ライン全体を立て直すまで数か月は事業が完全に止まってしまいます。
建物に着き、2階にあるTinyPilotのオフィスへ向かいました。一歩ごとにカーペットがぐしょりと水を含んで沈みます。
フロアに着くと、破裂したのはTinyPilotの区画ではなく共用の会議室だとわかり、ほっとしました。オフィスの鍵を開けると、中は完全に乾いていました。水はドアの下からすら染み込んでいませんでした。
しかし安堵は長く続きませんでした。大家から、会議室と共有している壁を修理するため、「数週間から数か月」は退去しなければならないかもしれないと言われたのです。

TinyPilotの隣のオフィスでスプリンクラーが破裂し、室内のすべてがダメになりました。
通常でも、数日の告知でオフィス全体を移転するのは大変ですが、その週は特にタイミングが悪かったのです。ヨーロッパへ2週間の旅行を控えており、TinyPilotを始めて以来最も長い不在になる予定でした。
私が不在の間に移転することになれば、パソコンやプリンターをセットアップできる人がいません。オフィスのIT担当は私自身だからです。そして配送ラベルを印刷できなければ、注文を発送できません。
結局、移転せずに済みましたが、この経験で二度とこんな状況はごめんだと思いました。小さな一つのオフィスにTinyPilotの運用を集中させることで、あまりにも大きなリスクを抱えていたのです。
注文発送のアウトソーシングとストレスの軽減
TinyPilotの注文発送はこれまで極めてスムーズで、だからこそアウトソーシングをずっと先延ばしにしてきました。過去2年間の3,500件以上の注文のうち、誤配送は5件ほどしかありませんでした。
2023年3月、TinyPilotは自社での発送から外部の物流倉庫(3PL)への委託に切り替えました。デバイスの組み立ては引き続きオフィスで行いますが、顧客に届けられる状態に梱包した製品を倉庫へまとめて送り、そこから顧客への発送は3PLが担う形です。
3PLへ切り替えた当時、私たちは「緊急モード」にありました。パートタイム2名のチームが週に約50台を組み立てていましたが、顧客も同じペースで購入していました。少しでも滞れば販売停止につながりかねない、ストレスの多い状況でした。
発送を外注すれば、チームの時間が空いて週100台ほど作れるようになると期待していました。しかし実際にはフル稼働でも週70台程度が限界でした。そのペースでは倉庫に十分な在庫を積むまでに数か月かかります。そこで夏を乗り切るために一時的に3人目の従業員を雇いました。
つまり、発送のアウトソーシングで劇的に時間が空いたわけではありませんが、大きな柔軟性を得ることができました。
一見すると、現地チームはすでに柔軟に働けているように見えました。翌日の集荷までに注文を梱包しておけばよいので、極端な話、午前3時に出勤してもよかったのです。
3PLに切り替えたことで、毎日の集荷という締め切りがなくなりました。代わりに、組み立てた製品を週に一度倉庫へ送ればよいだけになりました。
この柔軟性の向上でストレスは大きく減りました。従業員が4連休を取りたい場合でも、スケジュールを調整して週15時間という通常の勤務時間を確保できます。数日休んでも他のメンバーに負担をかけていると感じることがなくなりました。
TinyPilotを本物の製品らしく見せる
2023年にTinyPilotで最も目立った変化の一つが、製品の外観を改善したことです。
2022年末の時点では、7台の高性能3Dプリンターをフル稼働させて筐体を作っていました。3Dプリントとしてはかなり綺麗な出来でしたが、それでも「試作品」という印象は拭えませんでした。

Before:TinyPilotの3Dプリント筐体
2023年2月に、金属筐体へ切り替えました。

After:TinyPilotの金属筐体
金属筐体が売上に与えた影響の大きさには驚きました。販売数そのものが増えただけでなく、顧客が支払ってもよいと考える価格も上がったのです。価格をいろいろ試した結果、最終的に10%値上げしましたが、それでも月間販売数は3Dプリント筐体の頃を上回りました。
パッケージも刷新しました。昨年末まで、デバイスとケーブル類をまとめて緩衝材のポーチにくるみ、そのまま無地の茶箱に入れて出荷していました。


以前のTinyPilotのパッケージは、デバイス、ケーブル、説明書を緩衝材のポーチにきちんと包んだだけのものでした。
レビュアーがTinyPilotの開封体験を共有するたびに、少し胸が痛みました。

あるホームラボのレビュアーがレビューで紹介した、恥ずかしい旧パッケージ
製品用の立派な化粧箱を作ろうとデザイナーと何度か話したことはありましたが、実現せず、優先順位も高くありませんでした。金属筐体に切り替えたことで、パッケージの未熟さが一層目立つようになりました。
2023年後半、製造委託先と協力して生産工程全体を移管しました。その一環として、先方から化粧箱の制作を提案してもらいました。


TinyPilotの新しい製造委託先が作ってくれた、ブランド入りの化粧箱です。
製造委託先の作った箱は素晴らしい出来でした。Best Buyの棚に並んで目を引くほどではないかもしれませんが、ネットワーク機器としてプロフェッショナルなパッケージに仕上がっています。
学んだこと
低遅延の責任に潜むストレス
TinyPilotの注文発送を3PLに切り替えたことで現地チームのストレスが減り柔軟性が増しましたが、私自身のストレスが劇的に軽くなったことに最も驚きました。
何年もの間、「もし〜したらどうしよう」という不安を自覚しないまま抱え込んでいたのです。
3PLに切り替える前は、発送を止めかねないトラブルの心配が常に頭の片隅にありました。オフィスのルーターが落ちてインターネットに繋がらなくなったらどうしよう。デスクトップが突然プリンターと通信できなくなったらどうしよう。緊急で呼び出されて重要なプロセスを復旧させなければならない事態は何十通りもありました。
3PLと製造委託先に移行した今でも、問題が起こる可能性はありますが、日々の業務のクリティカルパスからは外れることができました。倉庫のプリンターが壊れても、誰かが直してくれますし、私はそのことすら耳にしないかもしれません。
プロジェクトが成熟するほど、保守に時間がかかる
6月、最新のTinyPilotソフトウェアアップデートの変更履歴を書こうとしたとき、今回の作業がユーザーにどう役立つのか説明するのに苦労しました。リファクタリングに力を入れすぎたのだろうと考え、次のリリースはもっとユーザー目線にしようと決めました。
次のアップデートを発表する段になっても、同じ問題に直面しました。2か月半の開発を経て示せたのは、小さな見た目の改善ばかりでした。
今のペースは、数か月ごとに大きな機能をリリースしていた初期に比べると、氷河のように遅く感じられました。タスクの優先順位付けを間違えたのか。チームの熱意が薄れたのか。技術的負債を抱えすぎたのか。
エンドユーザーには見えない作業も含め、リリースのタスク一覧をすべて見直しました。振り返ってみても、選んだタスクは適切だったと思います。一つひとつにかけた時間も妥当でした。

TinyPilotのバージョン2.6.1のタスクを、製品改善(緑)、自動化と複雑さの削減(青)、通常の保守(赤)で色分けしたものです
では、優先順位も効率も問題ないのに、なぜ進捗はこれほど遅くなるのでしょうか。
支配的な要因はコードベースの規模だと気づきました。コード量は3年前の3倍になっています。そしてコードは1行ごとに保守の時間が必要です。開発者の人数を固定したままコードベースが大きくなれば、必然的に古いコードの保守に費やす時間の割合が高まります。
保守以外にも、コードが増えれば新機能の開発コストも上がります。機能がゼロのアプリに最初の機能を追加するのは簡単です。すでに20の機能があるアプリに21個目の機能を加えるには、既存のすべてとどう統合するかをずっと深く考える必要があります。
大幅にスピードアップする方法はまだ見つかっていませんが、機能開発のペースに対する期待値を調整することを学びました。そして、より複雑になったコードベースを踏まえて開発コストの見積もり方も見直しました。
サポートのエスカレーションの大半は非同期でできる
TinyPilotのチームにはできる限り自律的に動いてもらうようにしています。同時に、困ったときには気軽に私に助けを求められる雰囲気も大切にしたいと思っています。
問題は、サポートチケットが私にエスカレーションされると、特にストレスを感じてしまうことでした。
しばらくは、それがエスカレーションの宿命だと思っていました。最も難しい顧客対応だけが私のところに来るのだから、ストレスを感じるのは当然だと。実際には、その大半は改善可能でした。
まず、エスカレーションのプロセスを変えました。これまでは「Michael、見たことのない問題が起きました。どう対応しましょうか?」という形がほとんどでした。そこで、エスカレーションする際に自分ならどうするかの案を添えるようにチームに促しました。もし私が不在で、彼らが最後の砦だとしたら、顧客に何と伝えるかを考えてもらうのです。
80%の場合、チームが考えた解決策は私が提案するものと同じでした。このやり方を繰り返すうちに、サポートチームは難しいケースへの対応がどんどん上手くなっていきました。
チームの回答が自分の考えとこれほど近いとわかってからは、チケットを私の返答待ちで止めておく必要はないと気づきました。80%のケースで私の貢献が「うん、その通りにして」だけなら、すぐに彼らの案を実行しつつ、並行して私に代替案がないか確認すればよいのです。
私の方がより良い解決策を持っていた少数派のケースでも、それはほぼ常にチームの提案に加えて顧客に試してもらえることでした。「早く介入してほしかった。デバイスを電子レンジに入れるよう案内してしまい、家が燃えてしまった」といった事態は一度も起きていません。
昨年の目標の自己採点
昨年、年間で達成したい3つの大きな目標を立てました。その結果は次の通りです。
週20時間でTinyPilotを運営する
- 結果: 前年より労働時間を大幅に減らし、これまでで最も多く旅行しました。
- 評価: B-
2023年は2022年よりずっと働く時間が減りました。仕事でもプライベートでもたくさん旅行しました。累計で約5週間「不在」にしましたが、すべて問題なく回りました。
夜に仕事を終えるとき、2022年にはやり残しを抱えたまま切り上げる感覚がよくありましたが、2023年は一日の仕事をやり切ったという感覚で終えられることがほとんどでした。
10万ドルの利益を出す
- 結果: 23万6千ドルの利益を達成しました。
- 評価: A+
ハードウェア開発への支出が減ることはわかっていたので、今年は黒字になると予想していましたが、金属筐体への切り替えがもたらす追加収益を過小評価していました。
目標を上回る結果となり、嬉しい驚きでした。
TinyPilotのオフィスを閉鎖する
- 結果: 重要でない業務のためにオフィスは維持しています。
- 評価: B
この目標を立てたときは、大家が月単位の契約に応じてくれるとは思っていませんでしたが、応じてくれました。長期契約の縛りがなくなったことで、期日までに退去しなければならないというプレッシャーは減りました。
製造と発送という重要な業務はオフィスから移管することに成功しました。ですから厳密にはオフィスは必要ありませんが、拠点があると便利です。
明日また管理人が玄関をノックして、何らかの災害でオフィスの備品がすべてダメになり、スペースが使えなくなったと告げられたとしても、腹は立ちますが致命的ではありません。
7年目の目標
週20時間でTinyPilotを運営する
2022年にも2023年にも同じ目標を掲げたのは承知していますが、三度目の正直です!マネジメントにかける時間は減少傾向にあるので、今年こそ達成できるかもしれません。
講座または書籍を出版する
2021年に、開発者の文章力向上を支援する本を書くと言いました。第1章の8割まで書き進めたところで、その年はTinyPilotに自由な時間をすべて吸い取られてしまいました。
今でもその本を書きたいと思っています。マネジメントの時間を減らせれば、空いた時間でもっと執筆できるはずです。
最近はNixやZigといった、可能性を感じつつも学習リソースが不足している技術を試しています。どちらかの技術で講座を作るのは、自分の理解を深めつつ、これらのツールをより多くの人にとって身近なものにする楽しい方法になりそうです。
週10時間はソフトウェアを書く
コードを書くことは、今でも私の大好きな活動の一つです。
ここ数年のTinyPilotでは、プログラミング自体は楽しんできましたが、限られた稼働時間を費やす賢明な方法ではありませんでした。6人のチームと複数の重要なベンダー、そして多くの可動部分を抱え、TinyPilotで最も差し迫った仕事は常にマネジメントでした。
TinyPilotの運用面をさらにアウトソースし、委譲することで、プログラミングが時間の最適な使い方とまではいかなくても、少なくとも合理的な使い方と言えるくらいまで余裕を作りたいと思っています。
今でもこの仕事が好きですか?
毎年この振り返り記事を書くたびに、今の仕事がまだ好きかどうかを自問しています。
2022年は今でも最も厳しかった年です。雇われて働くよりはましでしたが、新しい仲間を迎え入れつつ世界的な半導体不足を乗り切るのは大きな試練でした。
2023年は前年から大きく改善しました。対処すべき火消しは減り、重要なワークフローを専門ベンダーに移せたのは気持ちのよいことでした。
2023年の難点は、なかなか心が躍らなかったことです。再構築の年だったため、TinyPilotのプロセスを再定義したり、チームの役割を組み替えたりすることに多くの時間を費やしました。TinyPilotを通じて、組織のプロセス設計は平均的な開発者より得意だとわかりましたが、それでも退屈で仕方ありません。
この一年を心から愛していたとは言えませんが、大半は楽しめましたし、雇われて働くよりはよかったと思っています。自分自身のために働き、誇れる製品を作って生計を立てられる立場にあることをありがたく思っています。
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