ブートストラップ創業者としての6年目
原文は Michael Lynch により に公開されました。 このブログを購読する
6年前、私はGoogleの開発者としての仕事を辞め、自己資金でソフトウェア会社を立ち上げました。
最初の数年間、立ち上げたビジネスはすべて失敗しました。最もうまくいったものでも月に数百ドルの売上があるだけで、黒字になったものは一つもありませんでした。
3年目の半ばに、TinyPilotというデバイスを作りました。ユーザーがコンピュータを遠隔操作できるようにする製品です。すぐに評判となり、それ以来ずっと私のメイン事業になっています。


TinyPilotは、ユーザーがコンピュータを遠隔操作できる小型デバイスです。
2023年、TinyPilotの売上は99万7000ドルで、少し欲張って100万ドルと切り上げておきましょう。さらに重要なのは、利益が23万6000ドルに達し、2022年から20倍に増加したことです。
この記事では、ブートストラップ創業者として6年目に学んだことを共有します。
過去の振り返り
TinyPilotの利益が20倍に
| 収支項目 | 2022 | 2023 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | $807,458 | $992,597 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| クレジットカード還元 | $4,327 | $4,379 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| 収入合計 | $811,785 | $996,976 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| 広告費 | -$51,764 | -$39,270 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| クラウドサービス | -$9,151 | -$16,408 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| デザインコンサルティング | -$30,215 | -$950 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| 電気工学コンサルティング | -$124,643 | -$23,427 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| フルフィルメント業者 | -$0 | -$28,321 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| オフィス家賃 | -$6,600 | -$6,310 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| 人件費 | -$205,984 | -$255,779 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| 送料 | -$28,324 | -$16,853 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| 原材料費 | -$324,140 | -$358,457 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| その他経費 | -$25,398 | -$31,404 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| 費用合計 | -$806,219 | -$777,179 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
| 純利益 | $10,447 | $235,568 | JavaScriptを有効にすると差分が表示されます |
ほぼ収支トントンだった2年間を経て、TinyPilotはついにまとまった利益を出せるようになりました。
変化の大部分は売上の増加によるものです。今年、筐体を金属製に切り替えたことで、顧客が支払ってもよいと考える価格が上がっただけでなく、製造キャパシティも向上しました。
費用は内訳が入れ替わったものの、全体ではほぼ横ばいでした。デザインコストはほぼゼロになりました。ロゴの微調整のためにデザイン会社に月6000ドル払うのをやめたからです。ハードウェア設計の改良よりも既存製品のスケールに集中したことで、電気工学関連のコストも10万ドル削減できました。
私は役員報酬を受け取っていないので、2023年にTinyPilotから得た収入の総額は23万6000ドルです。ブートストラップ時代の最初の5年間、わずかな収入でどうやって生活していたのかとよく聞かれます。答えは、マサチューセッツ州西部という物価の安い地域に住んでいることです。ビッグテックで働いていた頃にインデックスファンドで貯めた資産があり、その配当収入で生活をまかなえていました。
2023年で最も恐ろしかった10分間
2月のとあるのんびりした土曜の午後、ドアをノックする音がしました。玄関先に立っていたのは、ジーンズにウインドブレーカーを着た50代半ばの男性でした。私はパジャマ姿のままドアを開けました。
「あんたがTinyPilotの人か?」と彼は尋ねました。
「まずい」と思いました。不満を抱えた顧客が家まで来たのだろうか。
「……はい、そうです」と私はおそるおそる答えました。
「オフィスの管理人なんだが、スプリンクラーが破裂してね。あんたの部屋に入れないんだ。下に来てくれないか?」
嫌な予感がしました。
オフィスまでの5分間の車内で、これで事業が終わるかもしれないと考えました。すべての在庫をTinyPilotのオフィスに置いていたのです。基板が水浸しになっても動くのだろうか。おそらく無理でしょう。
TinyPilotは保険に入っていましたが、加入したのは1年前、在庫が今の半分だった頃に決めた補償内容です。仮に保険金が下りたとしても、製造ライン全体を再稼働させるまで数カ月は事業が完全に止まってしまいます。
建物に着き、2階にあるTinyPilotのオフィスへ向かうと、一歩ごとにカーペットがぐしょりと水を含んで沈みました。
フロアに着くと、破裂したのはTinyPilotの部屋ではなく共用の会議室だったことがわかり、ほっとしました。オフィスの鍵を開けると、中は完全に乾いたままでした。水はドアの下からすら染み込んでいませんでした。
安堵もつかの間、大家からは会議室との共有壁を修理するため、「数週間から数カ月」は退去しなければならないかもしれないと告げられました。

TinyPilotの隣のオフィスでスプリンクラーが破裂し、室内のすべてが破壊されました。
通常でも、数日以内の通告でオフィス全体を移転させられるのは大きな混乱ですが、この週はとりわけタイミングが最悪でした。TinyPilotを始めて以来最長となる、2週間のヨーロッパ旅行を目前に控えていたのです。
もし私の不在中にチームが移転することになれば、誰もパソコンやプリンターのセットアップができません。オフィスのIT担当は私だったのです。そしてチームが配送ラベルを印刷できなければ、注文の発送もできません。
結論から言えば移転はせずに済みましたが、この経験で二度とあんな状況はごめんだと思いました。小さな一つのオフィスにTinyPilotの運用すべてを集約することで、あまりにも大きなリスクを抱えていたのです。
注文発送のアウトソーシングとストレスの軽減
TinyPilotの注文発送はこれまで極めてスムーズで、だからこそアウトソーシングをずっと先延ばしにしてきました。過去2年間で3500件以上の注文のうち、誤った商品を送ってしまったのはわずか5件ほどでした。
2023年3月、TinyPilotは自社での発送からサードパーティロジスティクス(3PL)倉庫の利用へ切り替えました。デバイスの組み立て自体は引き続きオフィスで行い、顧客に届けられる状態に梱包したものを倉庫へまとめて送り、そこから顧客への最終的な発送は3PLが担う形です。
3PLへ移行した当時、私たちは「緊急モード」にありました。パートタイム従業員2名のチームが週に約50台を組み立てていましたが、顧客も同じペースで購入していました。少しでも滞れば販売停止に陥りかねない、ストレスの多い状況でした。
発送をアウトソースすればチームの時間が空き、週100台ほど生産できるようになるのではと期待していました。しかし実際はフル稼働でも週70台が限界でした。そのペースでは倉庫に十分な在庫を積み上げるのに何カ月もかかるため、夏を乗り切るために一時的に3人目の従業員を雇いました。
結局、発送のアウトソーシングで大幅に時間が空いたわけではありませんでしたが、大きな柔軟性を得ることができました。
地元チームはすでに柔軟に働けているように見えました。翌日の集荷までに注文の梱包さえできていれば、午前3時に出勤したって構わなかったのです。
3PLへの切り替えで、集荷という毎日の締め切りがなくなりました。代わりに残った締め切りは、組み立てた製品を週に一度倉庫へ発送することだけです。
この柔軟性の向上でストレスは大きく減りました。従業員が4連休を取りたいときは、スケジュールを調整して週15時間という通常の勤務時間を確保できます。数日休んでも、残りのメンバーに負担をかけていると感じずに済むようになりました。
TinyPilotを本物の製品らしく見せる
2023年にTinyPilotで最も目立った変化の一つが、製品の外観の改善でした。
2022年末の時点でも、TinyPilotの筐体は7台の高性能3Dプリンターをフル稼働させて作っていました。3Dプリントとしてはかなりきれいな仕上がりでしたが、それでも「試作品」という印象は拭えませんでした。

Before: TinyPilotの3Dプリント筐体
2023年2月に、金属製の筐体に切り替えました。

After: TinyPilotの金属筐体
金属筐体が売上に与えた影響の大きさには驚きました。販売数そのものが増えただけでなく、顧客が支払ってもよいと考える価格も上がったのです。価格をいろいろ試した結果、最終的に10%値上げしましたが、それでも月間販売数は3Dプリント筐体だった頃を上回りました。
パッケージも刷新しました。昨年末まで、デバイスとケーブル類をまとめて気泡緩衝材のポーチに入れ、それを無地の茶箱に放り込んでいました。


TinyPilotの以前のパッケージは、デバイス、ケーブル、説明書を気泡緩衝材のポーチできれいに包むだけのものでした。
レビュアーがTinyPilotの開封体験を共有するたびに、少し身がすくむ思いでした。

あるhomelabレビュアーが、レビューでTinyPilotの昔の恥ずかしいパッケージを紹介しています
製品用のちゃんとした化粧箱を作ろうとデザイナーと何度か話したこともありましたが、結局まとまらず、最優先事項でもありませんでした。金属筐体に切り替えたことで、パッケージの未熟さがかえって目立つようになりました。
2023年後半、製造全体を引き継いでくれる受託製造業者と仕事を始めました。その一環として、彼らが化粧箱の製作も申し出てくれました。


TinyPilotの新しい受託製造業者が、ブランド入りの化粧箱を作ってくれました。
受託製造業者は箱で素晴らしい仕事をしてくれました。Best Buyの棚に並んで目を引くほどではないかもしれませんが、ネットワーク機器としてプロフェッショナルなパッケージに仕上がっています。
学んだこと
即時対応が求められる責任には隠れたストレスがある
TinyPilotの注文発送を3PLに切り替えたことで地元チームのストレスは減り柔軟性は高まりましたが、何より驚いたのは、自分自身のストレスが劇的に軽くなったことです。
何年もの間、「もしこうなったらどうしよう」という不安を自覚しないまま抱え込んでいたのです。
3PLに切り替える前は、発送を妨げるあらゆる事態が常に頭の片隅にありました。オフィスのルーターが故障してインターネットにつながらなくなったらどうしよう。デスクトップが突然プリンターと通信できなくなったらどうしよう。緊急で呼び出され、重要なプロセスの詰まりを解消しなければならない事態は数十通りも考えられました。
今は3PLと受託製造業者に移行したことで、問題が起こる可能性自体はまだたくさんありますが、日々の業務のクリティカルパスからは外れました。倉庫でプリンターが壊れても、誰かが直してくれますし、私はおそらくそのことすら耳にしないでしょう。
プロジェクトが成熟するほど、保守に時間がかかる
6月、最新のTinyPilotソフトウェアアップデートの変更履歴を書こうとしたとき、私たちがやった作業のどれがユーザーにとって有益なのかを説明するのに苦労しました。リファクタリングに力を入れすぎたのだろうと考え、次のリリースはもっとユーザー目線にしようと決めました。
次のアップデートを告知する段になっても、同じ問題に直面しました。2カ月半かけて開発したのに、見せられる成果は小さな見た目の改善だけでした。
数カ月ごとに大きな機能をリリースしていた初期に比べると、今のペースは氷河のように遅く感じられました。タスクの優先順位付けを誤ったのか。チームの熱意が薄れたのか。技術的負債を抱えすぎたのか。
エンドユーザーからは見えない作業も含め、リリースのタスクリストをすべて見直しました。後から振り返っても、タスク選びは正しかったと感じました。それぞれのタスクにかけた時間も妥当でした。

TinyPilotの2.6.1リリースのタスク。製品改善(緑)、自動化と複雑さの削減(青)、通常の保守(赤)で色分けされています
では、なぜ優先順位も効率も問題ないのに、進捗はこれほど遅くなったのでしょうか。
支配的な要因はコードベースの規模だと気づきました。コード量は3年前の3倍になっています。そして、1行1行すべてに保守の時間がかかります。開発者の人数を固定したままコードベースが大きくなれば、古いコードの保守に費やす時間の割合は必然的に高まります。
保守だけでなく、コードが増えれば新機能の開発コストも上がります。機能がゼロのアプリなら、最初の1つを作るのは簡単です。すでに20の機能があるアプリに21個目の機能を追加するとなれば、他のすべてとの統合をずっと慎重に考えなければなりません。
大幅にスピードアップする方法はまだ見つかっていませんが、機能開発のペースに対する期待値を調整することは学びました。そして、より複雑になったコードベースを踏まえて開発コストの見積もり方法も見直しました。
ほとんどのサポートエスカレーションは非同期でできる
私はTinyPilotのチームになるべく多くの自律性を持たせたいと思っています。同時に、困ったときに気軽に私に助けを求められるようにもしたいのです。
問題は、サポートチケットが私にエスカレーションされると、特にストレスを感じることでした。
しばらくは、それがエスカレーションの宿命だと思っていました。私のところに来るのは最も難しい顧客からの質問だけなのだから、ストレスを感じるのは当然だと。実際は、そのほとんどが改善可能でした。
まず、エスカレーションのプロセスを調整しました。従来のエスカレーションは「マイケル、見たことのない問題が起きました。どう対応しましょうか?」という形がほとんどでした。そこでチームには、エスカレーションする際に解決案も一緒に提案するよう促しました。もし私が不在で、彼らが最後の砦だとしたら、顧客に何と伝えるかを考えるのです。
80%の場合、チームが考えた解決策は私が勧めるものと同じでした。そうする回数を重ねるほど、サポートチームは難しいケースへの対処が上手くなっていきました。
チームの回答が自分の考えとどれほど近いかがわかってからは、チケットを私の回答待ちで止める必要はないと気づきました。80%のケースで私の貢献が「そうしてください」と言うだけなら、すぐに彼らの案を実行しつつ、並行して私に代替案がないか確認すればよいのです。
私の方がより良い解決策を思いついた少数派のケースでも、それはほぼ常にチームの提案に加えて顧客が試せることでした。「もっと早く介入してほしかった。電子レンジに入れるよう勧めてしまって、家が火事になった」といった事態に陥ったことは一度もありません。
去年の目標の採点
昨年、私は年内に達成したい3つの大きな目標を立てました。その結果は次のとおりです。
週20時間でTinyPilotを運営する
- 結果: 前年までと比べて労働時間を大幅に減らし、これまでで最も多く旅行しました。
- 評価: B-
2023年は2022年よりずっと働く時間が減りました。仕事でもプライベートでもたくさん旅行しました。累計で約5週間「不在」にしましたが、すべて問題なく回りました。
夜に仕事を切り上げるとき、2022年にはやり残しを抱えたままという感覚が頻繁にありましたが、2023年は一日の仕事をやり切ったという感覚で終えられることがほとんどでした。
利益10万ドルを稼ぐ
- 結果: 利益23万6000ドルを達成しました。
- 評価: A+
ハードウェアエンジニアリングへの支出が減ることはわかっていたので、今年は黒字になると予想していましたが、金属筐体への切り替えがもたらす追加収益を過小評価していました。
目標を上回れたことは嬉しい驚きでした。
TinyPilotのオフィスを閉鎖する
- 結果: 重要でない業務のためにオフィスはまだ保有しています。
- 評価: B
この目標を立てたときは、大家が月単位の契約に応じてくれるとは思っていませんでしたが、応じてくれました。長期契約がない分、特定の期限までに退去しなければならないというプレッシャーは小さくなりました。
製造と発送という重要な業務をオフィス外へ移すことには成功しました。厳密にはもうオフィスは必要ありませんが、拠点があると便利です。
もし明日また管理人がドアをノックして、何らかの災害でオフィスの資産がすべて破壊され、スペースが使えなくなったと告げられても、腹は立つでしょうが破滅的ではありません。
7年目の目標
週20時間でTinyPilotを運営する
2022年にも2022年にも2023年にも同じ目標を掲げたのは承知していますが、三度目の正直です!マネジメントにかける時間は減少傾向にあるので、今年こそ達成できるかもしれません。
コースまたは書籍を出版する
2021年、開発者の文章力向上を支援する本を書くと宣言しました。1章の80%まで書き進めたところで、その年はTinyPilotにすべての自由時間を奪われてしまいました。
今でもその本を書きたいと思っているので、マネジメント時間を減らせれば、空いた時間を執筆に充てられるはずです。
最近はNixやZigといった、面白いのに学習リソースが不足している技術を試しています。これらの技術のコースを作ることは、自分の専門性を高めつつ、他の人にもこれらのツールを使いやすくする楽しい方法になるかもしれません。
週10時間ソフトウェアを書く
コードを書くことは、今でも私の大好きな活動の一つです。
ここ数年のTinyPilotでもプログラミングは楽しんできましたが、限られた労働時間の賢い使い方ではありませんでした。6人のチームと複数の重要なベンダー、そして多くの可動部分を抱える中で、TinyPilotで最も差し迫った仕事は常にマネジメントでした。
TinyPilotの運用面をさらにアウトソースし委任することで、プログラミングが最適な時間の使い方とまではいかなくても、少なくとも合理的な使い方と言えるくらいまで余裕を作りたいと思っています。
今でもこの仕事が好きか?
毎年、この振り返り記事を書くときに、自分は今の仕事をまだ愛しているだろうかと自問します。
2022年は今までで最も厳しい年でした。雇われて働くよりはまだましでしたが、新しいチームメンバーを迎え入れつつ世界的な半導体不足を乗り切るのは大変な挑戦でした。
2023年は前年から大きく改善しました。消火すべき火事は減り、重要なワークフローを専門業者に移せたのは気持ちの良いことでした。
2023年のマイナス面は、あまりワクワクできなかったことです。再構築の年だったので、TinyPilotのプロセスを再定義したりチームの役割を調整したりすることに多くの時間を費やしました。TinyPilotを通じて、組織のプロセス設計は平均的な開発者より得意だとわかりましたが、それでも退屈でたまりません。
この1年を心から愛していたとは言えませんが、大部分は楽しめましたし、雇われて働くよりは良いと思えました。自分自身のために働き、誇れる製品を作って生計を立てられる立場にあることに感謝しています。
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